「ゲゲゲの鬼太郎」の著者の自伝です。
非常に頑健な身体と、素直な精神の持ち主だったようです。
戦争で左腕を失ったことは存じませんでした。
1922年生まれですから、激動の時代を生き抜かれたことになります。
1939年には第二次世界大戦が始まり、日本も参戦します。
鳥取県境港に住む著者も、徴兵され南方の島ラバウルに送られます。
生きて帰れた方は稀だった激戦区です。
淡々と話は進みます。
著者の視線は常に静かに澄んでいます。
少年期と日常生活が戦争により一変し、戦争の中の話、終戦後の混乱期、漫画家として成功する以前の極貧の生活。
戦争に進む社会の様子や、戦時中の軍隊の様子、南の島の人の生活。
国に帰ってからの、食べていくのが大変だった頃の話。
著者はたくさん本も書かれており、別の著作でもそれぞれが詳しく語られています。
戦争にいかされることになった著者は、心を治めるべく書物を読み漁ります。
もっとも支えになったのはゲーテだったとのことです。
ゲーテは1749年生まれのドイツの文豪であり政治家です。
昔は「若きウェルテルの悩み」は若者の必読書だったと思うのですが、今は昔かもしれません。
著者の文章を読んでいると、野に咲く花が風に揺れるているのを、眺めているような気持ちになります。
おぼつかないようで、たくましい。
貪らず奪わないが、余計な助けもしない。
読みながら、野生という言葉を思い浮かべてしまうのです。